「寝る子は育つ」、じゃあ大人は?睡眠と生活習慣病の意外な関係
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
医師 小田原 隆 監修
(元氣プラザだより:2026年8月号)
「寝る子は育つ」とは、よく眠る子は元気で丈夫に育つという意味のことわざです。実際に、睡眠中には成長を促す「成長ホルモン」が多く分泌されることが知られており、科学的な根拠に基づいた言葉でもあります。
大人にとっての睡眠は主に「疲労回復」を担っていますが、近年では、睡眠不足や睡眠の質の低下が、さまざまな生活習慣病と関係することもわかってきています。本コラムでは睡眠の役割と睡眠不足が引き起こす生活習慣病のリスクについて解説します。

人には浅い眠りと深い眠りがある
睡眠のリズムには、浅い眠り=レム睡眠(脳は働いているが体は休んでいる睡眠)、深い眠り=ノンレム睡眠(脳も体も休んでいる睡眠)があり、さらにノンレム睡眠には3段階あります。眠りにつくとノンレム睡眠の1段階目から2段階目、3段階目へと進み、徐々に深い眠りになります。一定時間が過ぎると睡眠は徐々に浅くなり、レム睡眠になります。レム睡眠から次のレム睡眠までがおよそ1~2時間、このサイクルを1晩に4~5回繰り返すといわれます。レム/ノンレムという言葉は、閉じた瞼の下にある眼球の動き(Rapid Eye Movement、REM)に由来します。
それぞれの状態と体に起こる変化をイメージ図にまとめました。
睡眠はなぜ必要?
睡眠には「体の休息」はもちろんですが、「脳の休息と回復」という役割があります。私たちは日中に活発に脳を使い、勉強や仕事をします。そして睡眠時には、次のような体と脳のメンテナンスが行われています。
● 学習内容の整理や定着
(日中に得た情報を整理し再構成することで、洞察力も生まれやすくなる)
● 身体組織の修復や再生、成長
● 自律神経・内分泌系・免疫系のバランスを整える
● 運動機能の定着や向上
近年、マウスを使った研究で、米国の研究チームが、睡眠中(特に、深いノンレム睡眠時に)は脳内に脳脊髄液を効率よく循環して老廃物を排出するシステムが活発に働いていることを解明し、「睡眠中に脳が掃除される」と考えられています。また、国内の林悠らの研究グループは、レム睡眠中の大脳皮質の血流量が覚醒時の2倍近くに増えていることを見出し、脳のリフレッシュが活発に行われている可能性を示しています。
睡眠不足や不眠症が引き起こす生活習慣病のリスク
慢性的に睡眠が不足すると、体にはさまざまな影響が出てきます。
●精神機能の低下:意欲低下、記憶力減退など
●自律神経機能の低下
●内分泌機能の低下: 血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きが悪くなる、食欲を抑えるホルモン(レプチン)の働きが悪くなり食欲を増強させるホルモン(グレリン)が増える
●疲労がたまる、疲れが取れない
●(日中の)眠気がとれない
睡眠障害は、不眠症だけでなく、40~50代から増えてくる睡眠時無呼吸症候群も、生活習慣病と深く関係しているといわれます。詳しいメカニズムはまだ十分には解明されていませんが、「良い睡眠をとれないこと」はさまざまな病気と深い関係があることが分かっています。
高血圧
本来はしっかり眠れていれば下がるはずの血圧が下がらず、1日のうちで血圧の高い状態が続きます。睡眠が不足するとストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌量が夜間に減らないことと関係しているといわれています(睡眠時無呼吸の場合は、低酸素に伴う交感神経活性化などが主原因になります)。
肥満、糖尿病
前述のように、食欲を調節するホルモン(レプチン、グレリン)のバランスが崩れて空腹を感じやすくなるため、夜更かしをするとつい間食をして摂取カロリーが増えがちとなりますし、血糖値を下げるインスリンの働きの低下も影響しています。
心疾患、脳血管疾患
不眠が続くと交感神経の活動が亢進した状態になり、高血圧やインスリン作用の低下により、動脈硬化が進みます。その結果、将来的には狭心症、心筋梗塞、心不全といった心血管疾患や脳卒中のリスクが高くなります。
「良い睡眠」のための「良い生活習慣」とは
睡眠は、日中の活動で溜まった疲労を回復するために欠かせません。質の良い睡眠を得るために、3つのポイントを心がけましょう。
● 毎日の適度な運動習慣
適度な疲労感が入眠を促進し、途中覚醒を減らします。
・ウォーキング/ジョギング/ダンベルを用いる筋力トレーニング など
(眠る直前の運動は交感神経が活発になるため、就寝の2~4時間前に行いましょう)
● ぬるめのお湯にゆっくりつかる
入浴で温まった体が冷める過程で眠気が促され、入眠しやすくなるとともに深いノンレム睡眠を増加させます。(就寝の1時間前に済ませましょう)
● 生活のリズムを整える
人の体内時計の周期は24時間よりもやや長いため、毎日の微調整が必要です。朝起きたら光を浴びて体内時計を少し早め、夜は早めに暗い環境に入ることで体内時計の遅れを防ぐことができます。体内時計を24時間に整える規則正しい生活習慣を身につけましょう。
「眠れてないかも」と思ったら
不眠症や睡眠時無呼吸症候群だけではなく、時間が不規則な交替勤務の方も、何らかの睡眠障害を抱えているといわれます。睡眠不足や睡眠の質の低下は、自分では気づきにくいことがありますので、「疲れが取れていない」「日中の眠気が気になる」など感じている方は、一度ご自身の睡眠を振り返ってみることをおすすめします。
睡眠の状態を客観的に確認する方法として、自宅でできる睡眠検査があります。機器を装着して普段どおりに眠るだけで、睡眠の深さや睡眠障害のリスクを把握できるほか、結果に基づいた睡眠改善のアドバイスを受けられます。
睡眠は人生の約3分の1を占めるといわれています。毎日の睡眠時間を大切にすることは、現在の健康だけではなく将来の健康を育むための投資ともいえるでしょう。この機会に、ご自身の睡眠習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
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▶「よりよい眠り」のためのPoint4
▶睡眠と健康
参考資料
厚生労働省:健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~ 健やかな眠りの意義
厚生労働省:良い睡眠の概要(案)
ご精読ありがとうございました!