小さくても大切な『甲状腺』。知っておきたい働きと病気のこと。
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
統括所長 中村 哲也 監修
(元氣プラザだより:2026年5月号)
皆さんの「のど」には、大きさ4~5㎝、重さ20gほどの小さな臓器があることをご存じでしょうか。私たちの体を整えるとても大切な働きをもつこの臓器は、その形状が戦国時代の甲(かぶと)に似ていることから「甲状腺」と呼ばれています。
「甲状腺」とは
甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、羽を広げた蝶のような形をしている内分泌臓器です。代謝や体の成長を担う「甲状腺ホルモン」を分泌し、脈拍や体温を調整したり、自律神経の働きを調整したりしながら、子どもの成長や発達、大人の脳の働き、胃腸の働き、体重などをコントロールしています。
ホルモンは細胞や器官・臓器の働きを調整し、体の恒常性を保って健康を維持する物質で、体にとって適切な量があります。血液中の甲状腺ホルモンの量は、脳にある下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が甲状腺を刺激してホルモンの産生や分泌を促すことで、ちょうどよい量に保たれています。
しかし、このバランスが崩れて甲状腺ホルモンの量が正常範囲から外れると、体にはさまざまな不調が出てきます。甲状腺ホルモンの量が過剰になるか不足するかで体には逆の症状が現れますが、共通する症状もあるため、症状だけでの甲状腺の病気の判別は難しいといわれています。
甲状腺の病気
甲状腺の病気は、ホルモンの作用が過剰になる病気、低下する病気、甲状腺にしこりができる病気の3つに大きくわけることができます。
ホルモンの働きが過剰になる病気 ( 甲状腺機能亢進症・甲状腺中毒症 )
甲状腺ホルモンが過剰につくられる状態を「甲状腺機能亢進症」といいます。
また、血中の甲状腺ホルモンの働きが過剰で身体に影響が出ている状態を「甲状腺中毒症」といいます。
代謝が活発になりすぎることで、さまざまな症状が現れます。
┗ バセドウ病
甲状腺機能亢進症の代表として、バセドウ病があります。特有の症状として、眼球が突出する「バセドウ病眼症」があります。
┗ TSH産生下垂体腫瘍
下垂体に腫瘍ができるとTSHを作り続けてしまうため、結果的に甲状腺ホルモンの量や働きが過剰となります。
┗ 妊娠性一過性甲状腺機能亢進症
妊娠初期に起こる一過性の病気です。
ホルモンの働きが低下する病気 (甲状腺機能低下症)
甲状腺ホルモンの働きが低下することで、体の代謝が下がりさまざまな症状が見られます。
甲状腺ホルモンは、妊娠の成立や維持、子どもの成長や発達などを担う働きもあるため、不妊、流早産、胎児の発達不良、妊娠高血圧症候群などにも影響します。
┗橋本病
甲状腺機能低下症の代表として橋本病があります。橋本病であっても全員が甲状腺機能低下症になるわけではなく、実際に機能低下をきたすのは一部の人に限られます。
甲状腺にしこりができる病気 (甲状腺腫瘍)
甲状腺腫瘍には良性と悪性があり、多くは良性です。甲状腺がんであっても、かなり進行するまで甲状腺機能の亢進や低下による症状は見られません。
予防
甲状腺疾患の予防には日常生活での注意が重要です。適切な生活習慣を心がけることで、甲状腺の健康を維持し、疾患の発症リスクを減らすことができます。
┗ 適切なヨード(ヨウ素)摂取
甲状腺ホルモンの生成にはヨード(ヨウ素)が必要です。海藻類やうがい薬に多く含まれており、日本では欠乏することは稀ですが、過剰摂取は甲状腺ホルモンの低下を引き起こす可能性があり、適量の摂取が重要です。
┗ バランスの取れた食事
ビタミンやミネラルをバランスよく摂取することで甲状腺の機能をサポートします。特にセレンや亜鉛は甲状腺の健康維持に重要な栄養素です。日々の食事で意識的に取り入れましょう。
┗ 適切な生活習慣、禁煙
適度な運動は全身の代謝を促進し、甲状腺の機能をサポートします。また、十分な睡眠を確保することで、甲状腺ホルモンの分泌と体の回復を促進することができます。
なお、喫煙は特にバセドウ病の悪化因子となりますので控えましょう。
┗ ストレス管理
慢性的なストレスは甲状腺機能に悪影響を及ぼす可能性があります。リラクゼーション法や趣味を楽しむ、十分な休息などでストレスを軽減しましょう。
治療法
バセドウ病では治療法は複数ありますが、まずは薬物療法から開始することが多いです。抗甲状腺薬の服用によりホルモン値の正常化を目指します。橋本病では、甲状腺機能の低下がみられる場合はホルモン補充療法で対応します。
腫瘍は悪性の場合は手術が必要となりますが、良性の場合は経過観察が一般的です。
甲状腺の病気に気づくために
甲状腺に何らかの疾患を持つ人は500~700万人いると推計されますが、実際に治療を受けているのは90万人ほどといわれます。
一方、甲状腺の病気にはさまざまな症状があるため、別の病気と間違われることも多く、特定に時間がかかることもあります。甲状腺の腫れやしこりなど、気になる変化がある場合は、内分泌外来への受診を検討しましょう。甲状腺機能の異常は血液検査で調べることができ、当法人の人間ドックのオプション検査でも受診いただけます。
なお、甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病)は、発症しやすい「体質」が遺伝することがあります。ご家族に甲状腺疾患の既往歴がある場合は、定期的な検査や医師への相談をご検討してみてください。
体調の変化が気になる方は、こうした検査を活用しながら、早期発見・早期治療に努めましょう。
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参考
国立がん研究センター:がん統計
ご精読ありがとうございました!