食中毒から身を守ろう~症状から予防まで
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
統括所長 中村 哲也 監修
(元氣プラザだより:2024年8月号)
梅雨明けから連日、猛暑が続いています。これから9月ごろまでは高温多湿となり、食中毒の原因となる細菌の増殖が活発な時期です。食事の用意はなるべく火を使わずに済ませたくなりますが、しっかり水洗いをすることと十分に加熱をすることが、食中毒予防の第一歩です。
食中毒とは
食中毒とは、人体にとって有毒な食品を食べた結果、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が現れる病気です。厚生労働省の統計によると、令和5年の国内食中毒発生件数は1,012件(患者11,803人、死者4人)で、病因物質別では
●細菌 311件(患者4,501人、死者2人)
●ウイルス 164件(患者5,530人、死者1人)
●寄生虫 456件(患者689人、死者なし)
●動植物の自然毒 57件(患者129人、死者1人)
●その他・不明を合わせて33件(患者954人、死者なし)
と報告されています。細菌とウイルスを原因とするものを合わせると、475件(患者10,031人、死者3人)で食中毒患者数の9割以上を占めています。
食中毒の症状・病態
食中毒の症状や症状が現れるまでの時間は、原因となる有毒物質によって異なります。命に関わることもあり軽視できない病気です。
検査、診断
疑わしい症状がある場合は、医療機関を受診してください。同じものを喫食した複数の人が同様の症状を起こしている場合は、その情報を医師に伝えてください。
治療
基本的には、原因となる微生物の種類に関わらず、症状に対する治療を行います(対症療法といいます)。細菌が原因の場合、症状や重症度、年齢や基礎疾患など患者さんの状態によっては、抗菌薬を投与することや脱水に対して輸液を行うことがあります。ウイルスが原因の場合には抗菌薬は使用しません。脱水の症状があれば、水分補給と電解質のバランスを調整するために、経口補水剤を使った治療を行うことがあります。高度の脱水が見られる場合は輸液を行います。
予防
食中毒の原因となる細菌の多くは私たちが生活している中に存在しており、調理中に食材に付着し、調理後に長時間放置されて増殖すると食中毒の原因となります。
細菌性食中毒予防3原則
●細菌を食べ物に「つけない」
●食べ物に付着した細菌を「増やさない」
●食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」
厚生労働省からは、家庭でできる食中毒予防の6つのポイントが提唱されています。
▶ 厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」リーフレット(PDF)
一方のウイルスは、ごくわずかな数であっても食中毒を起こしますが、食品の中ではウイルスは増えないため、細菌とは食中毒予防の原則が少し違います。
ウイルス性食中毒予防の4原則
●ウイルスを調理場内に「持ち込まない」
●食べ物や調理器具にウイルスを「ひろげない」
●食べ物にウイルスを「つけない」
●付着してしまったウイルスを加熱して「やっつける」
前述のとおり、食中毒の症状の現れ方には個人差があります。それには原因となる病原体の種類や量、年齢や体格などさまざまな要因が考えられ、重症化のリスク因子のひとつとして、基礎疾患や免疫力(抵抗力)も挙げられています。
食中毒予防に注意することももちろん大切ですが、日ごろから自身の健康状態に気を配り、病気にならない・免疫力を低下させないような生活習慣や食習慣を心がけることも、食中毒による重症化を防ぐ大事なポイントです。
主な原因細菌・ウイルスと食中毒症状
< 細菌 >
カンピロバクター
【特徴】
・家禽・家畜、ペット、野生動物などの動物が保有している菌
・加熱不十分の肉(特に鶏肉)、生野菜、飲料水、ペットが感染原因となる
・乾燥に弱く、加熱で死滅する
【潜伏期間】
食後1~7日
【症状】
・下痢、腹痛、発熱、吐き気・嘔吐、悪寒、頭痛、倦怠感など
・感染後から1~3週間後にギランバレー症候群を発症することがある
ウエルシュ菌
【特徴】
・ヒトや動物の腸管内、下水、土壌、食品、ちりやほこりなどに存在している菌
・2種類以上の食品を原料とする複合調理食品が感染源となることが多い(カレーや煮物など)
・加熱調理で死滅せず、12~50℃で増殖する(ゆっくり冷却すると55℃から急速に増殖)
・酸素の少ない環境で増殖する
【潜伏期間】
食後6~18時間(平均10時間)
【症状】
・腹痛、下痢、(発熱や嘔吐はほとんどみられない)
・多くは発症後1~2日で回復するが、基礎疾患のある人、小児や高齢者では重症化することがある
サルモネラ属菌
【特徴】
・動物の腸管、下水、河川などの自然界に広く存在している
・汚染された卵(加工品含む)、食肉加工品(特に鶏肉)、飲料水、ペットなどから感染する
・学校や福祉施設、病院などで発生することが多い
【潜伏期間】
食後6~72時間
【症状】
・発熱(38~40℃)、腹痛、下痢、嘔吐など
・小児や高齢者では重症化することがある
腸管出血性大腸菌
【特徴】
・腸管内に存在している大腸菌のうち、病原性があり毒素を出して出血を伴う腸炎を引き起こす菌
・菌の成分や抗原によって細かく分類される
・加熱不十分な肉や洗浄不十分な生野菜などが原因となる
・動物との接触での感染例もある
【潜伏期間】
食後3~8日
【症状】
・症状の軽重があるが、多くは頻回の水様便で発症する
・激しい腹痛から著しい血便などがあり、発熱はあっても一過性
・これらの症状のある人の6~7%に、溶血性尿毒症症候群、脳症などの重症合併症を発症するとされ、死に至ることがある
ブドウ球菌
【特徴】
・ヒトの皮膚、鼻や口の中、家畜など哺乳類、鳥類など自然環境に広く存在している。(このうちもっとも病原性が高いものが黄色ブドウ球菌)
・傷などを触った手で食品を触ることでの感染が多い
・熱に強く、毒素ができると加熱しても感染を防ぐことはできない
【潜伏期間】
食後30分~6時間(平均3時間)
【症状】
・吐き気、嘔吐が必発症状
・症状の軽重は個々の感受性、摂取した毒素量によって異なる
・ほかに下痢を起こすことも多いが、症状はいずれも24時間程度で改善する
・但し、重症例は脱水やショック症状がみられる
セレウス菌
【特徴】
・土壌、水、ほこり、畜産水産物など自然環境に広く存在している
・穀類およびその加工品が原因となることが多い
・下痢型菌と嘔吐型菌があり、日本では多くが嘔吐型菌
【潜伏期間】
・嘔吐型菌:食後30分~6時間
・下痢型菌:食後6~15時間
【症状】
・嘔吐型菌:主な症状は吐き気、嘔吐で、腹部痙攣(けいれん)、下痢がみられることもある
抵抗力が弱い人への感染は急性肝不全を起こし、死亡することがある
・下痢型菌:水様便、腹部痙攣、下痢、腹痛、吐き気は下痢に伴うが嘔吐はほとんどみられない
腸炎ビブリオ
【特徴】
・海洋性の細菌で、魚介類に存在している
・生の魚介類が原因となる
・生育に3%程度の塩分が必要で、増殖の速度が極めて速い
・海水中や汽水域、水温15℃以上で活発に活動するため、真水や熱に弱い
【潜伏期間】
食後6~24時間
【症状】
・下痢が主症状(水様便、まれに粘血便)
・腹痛、頭痛、嘔吐、発熱、衰弱、悪寒、吐き気、しぶり腹など
< ウイルス >
ノロウイルス
【特徴】
・ヒトの小腸粘膜で増殖するウイルス
・カキなどの二枚貝が原因として報告例が多い
・貝の体内での増殖はできないが、貝の生息する環境が汚染されると貝に付着し、それを食べた人の体に入り込むと考えられる
・感染者の便、嘔吐物への接触による二次感染や、感染者のトイレ後の手洗いが不十分なときに調理から食品が汚染される例もある
・加熱の目安:85~90℃で90秒以上
【潜伏期間】
食後24~48時間
【症状】
・吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱が主症状
・通常は3日以内で回復する
・感染しても風邪様症状の場合もあるが、抵抗力が低下している人や小児では、少ないウイルス摂取量で発症する
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