大人も夏風邪にご用心
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
内科医 中村 仁美
(元氣プラザだより:2023年6月号)
かぜ症候群
風邪(かぜ)は正式名称として「かぜ症候群」といいます。鼻腔から喉頭まで上気道といわれる部位の急性炎症による症状(鼻水、鼻づまり、のどの痛み、頭痛、倦怠感、発熱など)を呈する疾患です。この急性炎症が気管、気管支、肺の下気道まで及び、咳や痰を伴うこともあります。基本的に自然に治り予後の良いものをかぜ症候群と言われ、80~90%はウイルスが原因です。
主な原因ウイルスとして、ライノウイルスやコロナウイルスが多く、次いでRSウイルスやアデノウイルスなどがあります。ウイルス以外では、一般細菌や肺炎マイコプラズマなどの細菌も原因となります。風邪症状のある方の診察では、通常は原因ウイルスまで同定せずに、症状、経過や体の所見により診断されます。ウイルスによるかぜ症候群の場合、解熱鎮痛剤や咳止めなど症状にあわせた対症療法にとどまります。
季節によって、かぜ症候群を呈する原因ウイルスが変わります。今回は、夏に流行するウイルスについてお話しします。
夏風邪とウイルス
夏風邪の原因となる主なウイルスには、アデノウイルスやエンテロウイルスなどがあります。
»アデノウイルス感染症
アデノウイルスに感染すると、咽頭結膜熱(プール熱)といって主に発熱、咽頭発赤、結膜充血を起こします。また感染したアデノウイルスのタイプにより結膜の充血や眼瞼浮腫、眼脂、眼痛とひどい眼症状もみられ、いわゆる“はやり目”と言われる流行性角結膜炎を起こします。ほかに胃腸炎や出血性膀胱炎もみられます。
アデノウイルスは、非常に感染力が強く接触や飛沫感染により集団感染や家族内感染も多くみられます。石鹸と流水の手洗いをこまめに行い、特にタオルは感染源となりますので必ず共有を避けましょう。通常のアルコール消毒では効果が乏しく、タオルなどのリネン類には熱湯あるいは次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が有効です。
»エンテロウイルス感染症
エンテロウイルスは風邪症状に加えて口の粘膜や手足やおしりなどの皮膚に水疱様の発疹がみられ、手足口病やヘルパンギーナと診断されます。水疱様の発疹は痛みを伴い、特に口のなかの水疱は食事が摂れないほど痛みます。胃腸炎や結膜炎も起こし、エンテロウイルスもアルコール消毒の効果は乏しく、熱湯や次亜塩素酸ナトリウム消毒が効果的です。
予防と対策
いずれのウイルスも子どもの発症が多い感染症ですが、感染力も強く大人ももちろんかかります。最近はコロナ禍の感染対策により、これらウイルス感染の流行が抑えられた傾向にありましたが、今後は感染対策の緩和により夏風邪の流行も危惧されます。
子どもも大人も抵抗力が落ちていると、夏風邪にとどまらず肺炎、髄膜炎、脳炎など重症化することもあります。特に真夏は食欲低下や睡眠不足など体調を崩すことも多い時期です。これからの暑い季節、日頃の体力や体調管理に注意を払い、アルコール消毒を過信せずに、石鹸と流水でのこまめな手洗いを継続していきましょう。
ご精読ありがとうございました!