心房細動とは
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
循環器内科医 久保 良一
(元氣プラザだより:2023年2月号)
心房細動とは、心臓の上の部屋(心房)が異常な電気信号によりぶるぶると不規則に震え心臓の拍動を乱している状態です。日本人の有病率は0.6~1.1%前後(70~80万人)と推定されています。心房細動は65歳以上の高齢者に多いため、今後人口の高齢化に伴いさらに増加するものと予想されています。
心房細動の症状
心房細動が起こると、脈が速く不規則になり、脈の乱れ、胸部の不快感、動悸、息苦しさ、運動時の疲労感、めまいなどの症状が起きることがあります。
心房細動による病気のリスク
心房細動は、それ自体は死に直結する病気ではありませんが、心房細動がない人に比べて、心不全になるリスクが3倍、脳梗塞になるリスクが5倍高くなるといわれています。
心房細動に伴う脳梗塞のメカニズム
心房細動が起こると不規則に震える心房(主に左心房)の中に血液の塊(血栓)ができ、その血栓が血流に乗って体に運ばれて行ってしまうことがあります。運ばれた先が脳の場合、脳を養っている血管が詰まり脳細胞が死んでしまう脳梗塞が起こることがあります。心房細動に伴う血栓により発症する脳梗塞(正確には心原性脳塞栓症といいます)は脳梗塞の2~3割を占めますが、梗塞のサイズが大きいために死亡率が高く(2割)、歩行に介助を要したり寝たきりなどの重い後遺症が残る場合が多い(4割)のです。このため心房細動からの脳梗塞(心原性脳塞栓症)の予防は極めて重要です。
心房細動から起こる脳梗塞の予防方法
心房細動をもっている場合、心不全のある方、高血圧の方、75歳以上の方、糖尿病の方、脳梗塞や一過性脳虚血発作を経験したことのある方は脳梗塞を発症するリスクが高いと言われています。このような場合、適切な抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)を受けると、6割以上の脳梗塞を予防できることがわかっています。長らくはワルファリンという、定期的な採血・食事制限(納豆が食べられなくなる)が必要な薬剤しかありませんでしたが、2011年からは頻回な採血や食事制限を必要としない直接経口抗凝固薬が使用できるようになりました。
心房細動自体に対する治療について
それでは血栓が出来る原因である心房細動自体に対する治療はどうしたらよいのでしょうか。代表的なものに薬物治療とカテーテルアブレーション治療があります。
薬物治療
薬物治療には、心房細動のままで心拍数を正常に近づけるレートコントロール治療と心房細動自体を予防・停止させるリズムコントロール治療があります。いずれにせよ薬物治療は根治的なものではないため、薬を飲み続ける必要があります。またレートコントロール治療では心臓細動は残存するため抗凝固療法の継続が必須となります。
カテーテルアブレーション治療
心房細動の多くは肺静脈(肺の血液を心臓に戻す血管)に発生した異常な電気信号が左心房(肺から血液が戻ってくる部屋)に伝わることで起こります。この肺静脈と左心房の間に絶縁体の帯を作って異常な電気信号を肺静脈内に閉じ込める治療です。使用する器具によって、高周波カテーテルアブレーション治療とバルーンカテーテルアブレーション治療があります。カテーテルアブレーション治療は根治術であるため薬物の減量が期待できます。
最後に
どのような方法で治療するかはそれぞれの患者さんによって異なりますが、どの治療法を選択するにせよ心房細動は治療が必要な不整脈です。健康診断などで心房細動が発見された場合には決して放置せず、不安な点や分からないことは医療機関に相談し、適切な治療を受けましょう。
※本文章は一般社団法人日本循環器学会ガイドライン及び一般社団法人日本不整脈心電学会ホームページを参考に作成致しました。
ご精読ありがとうございました!