ピロリ菌検査と治療について
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
消化器内科医 中河原 亜希子
(元氣プラザだより:2022年9月号)
ピロリ菌とは
ピロリ菌はヘリコバクターピロリの俗称で、胃に生息する細菌です。5歳以下で経口感染することが多く、家族内感染(特に母親からの感染)が主体といわれています。成人での感染が少ない理由は、胃酸などの防御機能が作用するためと考えられています。
日本でのピロリ菌感染率は低下傾向であり、出生年別にみると1950年代以上では40%以上なのに対し、1970年代で約20%、1980年代では12%となっています。これには上下水道の完備などの生活環境も関わっていると考えられています。
ピロリ菌は胃粘膜に感染して胃炎を生じさせ、萎縮性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、胃のリンパ腫など、様々な消化器疾患を発症させることが分かってきました。特に、胃がんとの関連が問題となっており、感染した人の約8%が胃がんになると推定されています。
ピロリ菌感染の診断について
1.内視鏡検査で胃の組織を採取し検査をする方法(迅速ウレアーゼ試験、組織鏡検法、培養法)
2.尿素呼気試験
3.抗ピロリ抗体検査(血液検査、尿検査、唾液検査)
4.便中ピロリ抗原検査
大きく分けて、上の4項目の検査があり、検査の目的などによって使い分けます。この中の1項目で陰性でも感染が疑われる場合、他の検査でも確認することがあります。
ピロリ菌除菌について
ピロリ菌に感染していると診断された場合、除菌治療が勧められます。ピロリ菌感染によって起こりうる疾患の予防、感染経路の抑制のためです。特に胃がん予防としての除菌の効果は、発症を約3分の1まで減少できることが分かってきました。
ただし、除菌治療の前には内視鏡検査を受けることが大切です。治療前の胃炎の評価や、除菌治療より優先すべき疾患(胃がんなどの悪性疾患)を確認する必要があるからです。
除菌治療では、3種類の薬剤を1日2回、7日間服用します。この3種類は、胃薬と抗菌薬2種類で、投与量や種類は定められています。薬を途中で中断した場合、除菌に失敗するだけでなく、耐性菌に変わってしまう可能性もあるので飲み忘れないこと、強い副作用が出ない限り最後まで飲みきることが非常に大切です。
除菌治療が成功したか否かの判定は、治療後少なくとも4週間経過しないとできません。成功率は90%前後と言われており、成功しないこともあるため、除菌判定は必ず受けるようにしましょう。
残念ながら成功しなかった場合は、二次除菌を行います。抗菌薬の種類を変更して同様の治療を行った後、4週間後以降に除菌判定を行います。二次除菌の成功率は98%と言われています。
二次除菌も成功しなかった場合、あるいは除菌で用いる薬のアレルギーをお持ちの場合でも除菌治療が可能なことがあります。ただし、自由診療となりますので、治療のメリット、デメリットを理解したうえで治療を受けることをお勧めします。
大切な点として、除菌が成功して胃がんのリスクが3分の1に減ったとしても、胃がんの発生する可能性はあります。除菌後も1年に1回は内視鏡検査を受けることをお勧めします。
また、今までピロリ菌感染の検査をしたことがない、または内視鏡検査を受けたことがない方は、ご自身の将来のため、次の世代のためにも健診や人間ドックで検査を受けてみてはいかがでしょうか。どの検査が必要か分からない方はぜひ、消化器外来でご相談ください。
ご精読ありがとうございました!