「腰痛症」について
医療法人社団 こころとからだの元氣プラザ
巡回健診部 内科医 伊澤和光
(元氣プラザだより:2021年2月号)
「腰痛症」という言葉をお聞きになったことはありませんか。
腰痛には腰椎椎間板ヘルニア、変形性脊椎症また脊柱管狭窄症といった整形外科的疾患のほか腎結石・尿管結石さらに腹部の良性・悪性腫瘍といったさまざまな疾患によっても起こり得ます。
ところが、腰痛持ちの方の中には腰の痛みや重苦しさだけで下肢の神経症状はなく、また尿や血液検査のほか腹部・腰部のレントゲン検査、超音波、MRI、CTスキャンといった診断法を用いても、さしたる異常はない方もおられます。
むしろ腰痛持ち全体の比率からみますと、こういった方のほうが多いのが実情です。
「何となく痛い、重い」「昨日は比較的良かったが、今日は痛い」というような腰の痛みが三か月以上続く場合、その痛みを「慢性腰痛」と呼んでいます。
これといった原因は特定できないのですが、腰痛をきたす「要因」はいくつか考えられています。主なものを挙げますと「姿勢」「体重増加」「腰を支える腹筋などの筋力低下」の3つです。
この3つについてお話しましょう。
1 姿勢
図1 正しい姿勢とバランスの悪い姿勢
背骨(脊柱)は横から見ますと一定のカーブを持っています。ところが、実際にその姿勢をみてみますと図1のように平らなタイプ(平背)、猫背(円背)、反りの強いタイプ(凹背)などに分かれます。
皆さんの背骨のカーブはどのタイプでしょうか?
図2のように壁に背をつけて立ってみてください。
かかと、お尻、肩甲骨部、そして後頭部が無理なく均等に壁につけばOKです。
ときどき背中を壁につけて、その感覚を覚えていただいて、歩くとき、電車やバスで立っているとき、デスクワークで前かがみになっているときでも20分に一度、10秒くらいで結構ですから、背筋を伸ばしてみてください。腰痛だけでなく、肩こりにも良いはずですよ。
2 体重
健康診断の結果欄にBMIという項目があるはずです。この値が18.5以上25未満であれば、あなたの身長体重比は合格です。もしこの値がわからない時でも、次の式で簡単に計算できます。
BMI = 体重(Kg) ÷ 身長(m) の2乗
例えば165㎝、体重65Kgであれば65÷1.65の2乗で23.8となりますのでOKです。マラソンランナーが走っているとき、着地した際にかかとや膝にかかる負担は体重の5倍などといわれていますが、体重が1Kg増えると腰に2Kgの負担がかかるといわれます。体重の増加には注意してください。
また体重増加の原因は皮下脂肪や内臓脂肪の増加です。そして脂肪のつく部位はお腹です。お腹が出ると腰の反りは強くなり、背骨のバランスは悪くなりますので慢性腰痛の一因となります。
3 腹筋
腰痛予防にはまず腹筋の力を維持することです。腹筋対背筋は3対1くらいがよいとされていますし、腹筋を鍛えれば背筋も鍛えられますので、腰痛対策として意識的に背筋を鍛える必要はないと思います。
ところで、腹筋の鍛え方ですが、一般的にはあお向けに寝て、両膝を立て両手は頭の後ろに回し、へそを見るように「ヨイショヨイショ」と行います。この方法ですと腹筋も確かに鍛えられるのですが、水平面から60度まで体を起こすのには主に腸腰筋を使っていますので、腸腰筋が鍛えられてしまいます。
腸腰筋というのは大腰筋とその裏側にある小腰筋と腸骨筋を合わせた筋肉をいいます。その作用は大腿骨と腰椎を繋いでいる筋群ですので、股関節を屈曲させるときに働く筋肉群です。
腸腰筋の筋肉(図3)をみて頂ければおわかりのことと思いますが、腸腰筋が鍛えられるとこの筋肉は背骨から大腿骨へと繋がっていますから腰の反りが強くなってしまう可能性がでてきます。
よく「腹筋を鍛えろと言われたので、立膝をして「ヨイショヨイショ」と続けたらかえって腰が痛くなった」としいう話を聞きます。これは腸腰筋を使い過ぎたためだと思いますのでご注意ください。
腹筋トレーニング(へそのぞき)
そこで以下に俗に「へそのぞき」という体操をご紹介しておきます。
次は慢性腰痛の一因となる腸腰筋と大腿二頭筋のストレッチの方法を載せておきますので「へそのぞき」体操と合わせて行ってください。
腸腰筋のストレッチ
あお向けに寝て両手で片側の膝を支えます。両手に力を入れて膝を胸に引きつけるようにします。ゆっくり10秒ほど保持します。そして元に戻してください。左右、交互に3回くらい行います。
大腿二頭筋のストレッチ
あお向けに寝て両手で片側の膝を支えます。両手で膝を抱え力を入れて膝を胸に引きつけるようにしながら膝を伸ばします。両手に入れる力が強ければ強いほど膝は伸びにくくなりますので両手に込める力を加減してください。これも片側3回、左右交互に行います。1回膝を伸ばす時間は10秒ほどです。
以上
ご精読ありがとうございました!