「乳がんについて、知っておきたいこと」 ~私だけは大丈夫、そんな思い込みは捨てよう~
監修: こころとからだの元氣プラザ
副所長、女性健診部長、理事 大村 峯夫
お風呂に入っていて、ふと胸にしこりがあることに気づいた―、そんなあなたは、とても幸運かもしれません。他のがんと違い、体の表面近くにできるしこりに気がつくことで、自分で発見できる唯一のがんがあります。それが乳がんです。
予防方法が確立されていない乳がんは早期発見、早期治療を心がけることが重要になってきます。本コラムでは、どんな人が乳がんにかかりやすいか、また、自分でできる乳がんチェック法、効果的な検診の受け方など、乳がんから身を守る方法をご紹介します。
乳がんとは、どんな病気?
乳房の「乳腺」という母乳をつくる器官に、悪性の腫瘍ができることがあります。これを一般に乳がんと呼んでいます。30代後半から患者が増え始め、40代、50代でピークを迎えます。
症状の特徴としては、しこり、乳頭からの血の混じった分泌物、乳首の陥没、皮膚のくぼみなどがありますが、初期には体調が悪くなるなどの症状がないため、気づいたときには全身に転移してしまっているというケースが多いのです。
原因ははっきりとは分かっていません。エストロゲンという女性ホルモンが発生に関与していると言われており、その分泌には、高カロリー・高脂肪の食生活が関係しているとみられています。
乳がんにかかりやすいのは、どんな人?
乳がんにかかりやすい人には、以下のような要因があります。
・年齢が40歳以上の人
・閉経が遅い人
・出産経験、授乳経験がない人
・初産が30歳以上の人
・肥満傾向にある人(特に閉経後)
・家族(母・姉妹など)に乳がんにかかった人がいる人
とはいえ、これらに多く当てはまる人が、必ず乳がんになるというわけではありません。また、全く当てはまらなくとも、乳がんになる可能性がゼロとは言えないため、安心はできません。やはりセルフチェックや検診を習慣づける必要があるのです。
自分でできる!乳がんのセルフチェック
普段から自分の乳房に触れる習慣をつけておき、変化をすぐに見つけられるようにしましょう。
1.鏡の前で、目で見てチェック
・左右の乳房の大きさに変化はない?
・皮膚にくぼみやひきつれ、ふくらみはない?
・乳首の陥没、ゆがみ、ただれ、色の変化はない?
※腕を下げた状態、上げた状態でそれぞれチェックしましょう!
2.実際に触ってチェック
・乳首を中心に、指の腹で小さく円を描くように手を動かし、しこりがないか調べましょう。鎖骨やわきの下など乳房全体をくまなくチェック!
・さらに乳首をつまんで分泌物がないかどうかチェック。乳がんがあると血の混じった分泌物が出ることがあります。
ワンポイントアドバイス
・月に1回、生理が終わったあとなら乳房が張っていないので、異常が発見しやすくなります。
・最初、2~3日おきにさわって、生理周期で乳房がどう変化するのか確認しておくのがいいでしょう。
30歳を過ぎたら、年1回の検診を!~より効果的な検査方法とは~
セルフチェックで異常があると感じたら、すぐに病院の乳腺科で診察を受けてください。また、異常がなくとも定期的に検診を受ける習慣をつけましょう。乳がんには、主に3種類の検査方法があります。
1.問診・視触診
医師が問診、視診、触診を行い、しこりの有無などの異常を発見します。
2.マンモグラフィ(乳房X線撮影装置)
乳房をレントゲンで撮影します。しこりになる前の微小石灰化や腫瘤陰影という初期状態から発見できます。しかし、20~30代の若い女性の乳房では、乳腺の密度が邪魔をしてがんがはっきり写らないことがあります。
当法人は「日本乳がん検診精度管理中央機構」の認定を受けています。
また、当法人の全てのマンモグラフィ・乳房超音波検査は、女性の技師が担当しています。
※写真は当法人のデジタルマンモグラフィ。
3.乳房超音波検査
検査部位に超音波を当てて返ってくる様子を画像にします。
超音波はX線の代わりに音を使っているため、放射線被爆の心配がありませんが、初期がんのサインであるしこり以前の微細な石灰化を見つけることが難しいという特徴があります。
厚生労働省で定めている乳がん検診の指針は、40歳以上を対象とし、問診・視触診、マンモグラフィ検査を2年に1回というものです。多くの自治体が健康診断で行う検診は、これに準じています。
しかし、より高い精度の検査が求められる現状の中、乳腺科などの専門診療科目を持つ医療施設では、効果的に乳がんを発見するために、以下のような方法が推奨されています。
- 3つの検査を組み合わせる
- 上記の3つの検査には、それぞれ長所や短所があります。例えばマンモグラフィは40代以上の女性に対して高い効果を発揮しますが、20~30代の女性には、超音波検査のほうが有効と言われています。これらを補うために、3つの検査をセットで行う方法が行われています。
- 30歳を過ぎたら、年1回の検診を受ける
- 乳がんの患者数は30代後半から増え始め、40代後半でピークを迎えるため、30代から年1回の検診が効果的です。親族に乳がん患者がいる人は発症リスクが高いため、20代から超音波検査を受け始めるとよいでしょう。
検診を受ける医療施設を選ぶときには、技師や医師の研修および機器の評価を行っている「日本乳がん検診精度管理中央機構」の認定を受けているかどうかが、一つの目安となります。お近くの医療施設に問い合わせてみましょう。
乳がんに対する意識を高めよう!
8人に1人が乳がんを患うというアメリカでは、1980年から乳がんの早期発見・治療の大切さを訴える「ピンクリボン運動」が始まりました。1993年からは「ナショナル・マンモグラフィデー」を10月の第3金曜日に設定し、乳がん検診の必要を訴えています。
日本でもアメリカにならい、2002年から毎年10月に「ピンクリボンフェスティバル」などのイベントが開催されていますが、日本人の乳がんに対する意識はまだまだ低いのが現状のようです。
検診率の低さには、女性特有の羞恥心が反映されています。男性医師の診療を受けるのは気が進まない…と、ついつい検診を先送りにしてしまい、手遅れになってしまうケースもあるようですが、近年は女性専用外来を設けている医療施設も増えてきました。ぜひお近くの女性専用外来を探してみてはいかがでしょうか。
乳がんは早く発見すれば、大部分は治るがんです。皆さんもこの機会に、まずはセルフチェックと年1回の検診へ、一歩踏み出してみてください。
(元氣プラザだより:2021年12月号更新)
ご精読ありがとうございました!